そもそも代表はどんな経緯で業界に入られたのですか。
当時、新宿に住んでいたんだけど、裏側の職安通りに日産サニーが昔あって、そこに就職が決まってたんだよ。だけど環八にゴーイングっていうカスタムショップがあって、そこの社長と仲良くなって、日産に行くと伝えたら「よせよせ、ディーラーになんか行ったら毎日点検だけで何にも面白いことねえよ! 足回り交換や、エンジン組み立てなんて絶対にやらせてくれねえぞ」と言われて。ええ、そうなの?と思って、専門学校の先生に「やっぱり日産サニーに行くのやめます」と言ったら先生がカンカンになっちゃって。「お前はいいけど、来年の卒業生のことを少しは考えろ」って怒られました。だけど嫌なものは嫌なんでって言って、それでカスタムのほうに進んだんです。
工場を立ち上げられたのはいつ頃ですか?
20年前です。その頃、私はカプチーノを乗り始めたのですが、周りには専用のパーツがすべて廃版で手に入らなかったので、しょうがないから自分でつくろうと思ったのが始まりでした。その頃は隣の市に大きな自動車部品工場があり、下請けの加工屋もいっぱいあって、その加工屋に頼めば色々なものを作ってくれたんですね。だけどそうした業者がどんどん撤退していったので、だったら自分でやらなきゃいけないのかなと。作れないのはゴムとプラスチックの射出成型くらいです。これはショップレベルで手が出せるものではないからね。
始めてから苦労したことは?
ないね。何一つない。楽しくここまで来れました。定休日がないから、正月とお盆くらいしか休まないけどね。年間で360日以上、カプチーノと向き合っています。結局、ものを作っているのが好きなんだろうね。よそがやらないならうちがやるというスタンスでやっているから、価格競争もないし、納期が遅いといった話にもなりませんよ。もともと自分のカプチーノを直そうと思って始まって、やってみたら意外とちゃんとやってくれるところがないということが分かって、どんどん口コミで広がっていったという感じです。気のあった人の車を好きなように直せるわけだから、楽だよね。損得勘定で言ったら、商売としては合わないかもしれない。カプチーノの部品も200~300万の在庫を持っていても、普通の修理では動かない。じゃあ、カプチーノのお客さんがいなくなったらどうするの?って言われたら、辞めるんだよとしか言えない(笑)。これは単純なことでしょうと。だってそういうことでしょう、必要ないんだから。
でも、カプチーノには根強いファンがいますよね。
昔はね、誰が一番最後まで乗っているんだろうっていう話をよくしていたんだけど、まだまだみんなしつこく乗っていますよね。
カプチーノの魅力って何ですか?
ちょうどいいんだよ、素人は(笑)。一般の人が800馬力のスカイラインを公道で乗りこなせるわけがないんだから。そう考えると日本は道も細いし路面も悪いし、高速で200kmも出したらすぐに捕まってしまうでしょ。その点、カプチーノなんてさ、何があったってとりあえず軽いから道路上で停まるしさ、安定性がないからそんなに速度を出さなくても怖い思いだってできる(笑)。今の車は簡単に200kmくらい出るから、ちょっと走りに行って何かあったら死んじゃうよね。素人は車にそこまで命を懸けらんないから、そう考えるとこれくらいでちょうどいいんだよ。それにうまく走った気分にもなれます(笑)。
走るタイプの軽だと、例えばダイハツのコペンなんかもありますが、やっぱり違いますか?
コペンは仕事柄、発表会の招待状も来て、実際に乗ってみたんだけどやっぱり挙動がFFなんだよね。エンジンの振れもあるし、ノーズダイブもすごいし、致命的なのは重いんだよね。なんだかんだで900kgオーバーでしょう。それとS660はさ、いじりようがないんだよ。電子制御でがっちりだから、ショップレベルでは手が出せないよね。やっぱり平成の最初くらいまででしょう、いじれるのは。だから32や33だって騒いでいて、36スカイラインはみんなやらないもん。というか、できないんだろうね。自動車メーカーが景気悪くなっちゃったから、トヨタにしろ日産にしろマツダにしろ、自分ちで作って売った車は最後まで自分ちでやりたいんだよ、改造からガラスコーティングから車検からエンジン交換から、とにかくうちの車なんだから、うちで全部やるよって。そういうスタンスになっちゃったよね。カプチーノが出てきたのはバブルのときだからメーカーもイケイケで、みなさんこの車で儲けてくださいという感じだったんだけどね。今は互助会みたいに、誕生から葬式まで全部うちで面倒みます、みたいなメーカーが多いです。
お客様に対して、どのように対応されていますか?
お客さんがうちに来るのは、部品が何でも置いてあるのと、作業時間が圧倒的に早いこと。クラッチ交換を一日5台とか、ミッションは半日で終わらせたりね。ある冬、新潟から朝の9時半くらいに来た人がいたんだよ、ミッションがダメだと言って。だけど日が出ているあいだに帰らないとアイスバーンになってしまう。最悪でも午後2時くらいに出たいというから、何とか頑張ってやり切りました。別に威張るわけじゃないけど、カプチーノに関して、俺に勝てる人はいない。日本にいないってことは世界にもいない。例えばモンスターって有名なショップもあるけど、カプチーノに関してはうちには逆らえないと思う。こなした数が違うから。今までで2000台くらいの車を大なり小なり触ってきているから、分かっちゃうんだよね。話して症状を聞くと。ふつうのショップなら原因からってなるけど、俺、それ必要ないから。
そこから部品を手配してって話になるけど、すでにあるのでその必要もない。だからほかのショップより時間もお金も少なくて済むんです。特別、頭いいわけでもないし、すごい腕を持っているわけじゃないけど、悪いけど触っている数が違うからね。うちはこれしかやらないから。たまに「コペンを修理したいんですが」っていう問い合わせも来るけど、もっと詳しいところに電話したほうがいいよって言って終わりにしちゃうから。うちじゃなくて、もっとすごいところがあると思うって。やってできないことはないと思うけど、その結果としてどうなるかも経験がないし、どうなるか断言できないから、得意なところに任せればいいんですよ。この歳にもなればめんどくせえし(笑)。だからガラス交換とかエアコン交換とかも自分ではやらないですよ。
役割分担が大事というわけですね。
誰にだって得意分野があるわけだから、それを一生懸命やればいいだけであって、なんでもかんでもできるよってところは信用しづらいよね。軽もやってフェラーリもやってるって言ったら、「へーすごいね」で終わり。あとは、片付いてねえ店は大っ嫌いだね。工具が床に散らばっていてあっちこっち油だけで、やれ工具がねえとか言ってるやつがいたら、辞めちゃえもう、って言いますよ。一番最初に勤めたショップの社長が今にして思えばすごい人で、その社長は19歳の僕にこう言ったんですよ。「〇〇くん、これからはいくらチューニングショップでも、女の人や子供連れの人が入れないような店はつぶれるよ。車屋だから汚れてもいいなんて通用しない」と。その言葉は響きました。
なるほど。そのほかに最近、思うところはありますか。
いまだにつなぎを着てやってるショップあるけど、あれって戦争時代の遺物だからね。ゼロ戦を整備している頃の。つなぎ着ているから汚れていいってことじゃないんです。あと、「匠」って言葉はよく使われるけど、本当の匠ってそこまでいないと思う。うちも匠って程じゃないけど、この車に関してはすごいってだけで、車の匠ではないもんな。
では、今後の目標は?
いつかはお気に入りのカプチーノに乗って一か月くらいドライブ行きたいなと思うね。仕事が忙しくて、なかなか行けない。別にいいんだけどね、好きでやっているわけだから。車が好きですと言ってもさ、いろいろあるじゃん。乗るのが好きな人もいれば、いじるのが好きな人もいる。一つだけ言えることは、この業界はもう末期だから、長いことはないんじゃないかな。だから子供は3人いるけど跡は継がせねえんだ。よせよせよせって(笑)。俺は何とか今のまま逃げきれそうだけど、お前らはもっとちゃんとした仕事をみつけたほうがいいよって。それでね、子供たちはみんなIT関連の業界にいます。
最後に、カプチーノを求めている人にアドバイスをするとしたら?
よくお客さんにも言うんだけど、車を買う同じ金額くらいの整備費用を考えておかないと、つまんないまま終わっちゃうよと。100万円で買ったら、100万円かけて直すくらいの感覚でいれば、きっとカプチーノを楽しめると思います。30年前の車だからさ、中古でまともな車があるわけがないんだよね。結局、100万円以下の車は何を買っても一緒。程度のいい旧車が欲しいんだったら、どんな車種でも200万くらいはかかりますよね。